[ケアビジネスSHINKA論 Vol.3166]

認知症予防の新常識

おはようございます、金曜日担当の尾添です。

「年齢を重ねた先で突然起こり、自分ではどうすることもできないもの」
認知症について、そう考えている人は少なくないかもしれません。
?世界的な医学誌『The Lancet』の2024年報告では、認知症の約45%は様々なリスク要因
に働きかけることで発症を遅らせたり、またリスクを軽減したりできる可能性があると示さ
れました。
その内容について取り上げたいと思います。

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■■ 認知症予防の新常識
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◆『The Lancet』は、世界的に知られる医学誌の一つです。
各分野の専門家が研究成果を整理し、課題や今後の方向性を示す委員会報告も公表します。
そして2024年7月に、前段に記載した内容を含めて「認知症の予防・介入・ケアに関する
Lancet常設委員会報告」が発表されました。
これまでに蓄積されてきた研究を広く検討し、認知症の予防、支援、治療、社会政策まで
を包括的に整理した報告です。
2017年、2020年に続く第3回の報告内容に今回は新たな項目を加え、認知症に関係する
「修正可能なリスク要因」は14項目となりました。
これらに生涯を通じて対応することで、認知症の約45%を予防したり、発症を遅らせたり
できる可能性が示されています。
https://dementia-platform.jp/ja/article/1497/

◆この45%は「生活習慣を改善すれば個人の認知症発症率が45%下がる」という意味では
ありません。
集団全体で14の要因に十分対応できた場合に、認知症の発症をどの程度減らせる可能性が
あるかを推計した数字です。
また、すべての関連が完全な因果関係として確定しているわけではありません。
それでも、この報告には大きな意味があります。
認知症は高齢になって突然始まるものではなく、それまでの健康、学び、人間関係、生活
環境の積み重ねと深く関係していることを示しているからです。

◆14のリスク要因は、人生の段階ごとに整理されています。
幼少期は1項目:教育歴の短さ。
中年期は10項目:難聴、高いLDLコレステロール、うつ病、頭部外傷、運動不足、糖尿病、
喫煙、高血圧、肥満、過度な飲酒。
高齢期は3項目:社会的孤立、大気汚染、未治療の視力低下。

◆これら14項目は、それぞれ独立しているわけではありません。
聞こえにくくなることで会話を避け、外出が減り、運動不足や社会的孤立につながる。
視力が低下することで移動への不安が強まり、活動範囲が狭くなる。
うつ状態によって人との関わりが減り、生活習慣も乱れていく。
一つの変化が、別のリスク要因を呼び込むことがあります。
介護現場で「活動への意欲がない」と評価しているご利用者は、実際には説明が聞こえてい
ないのかもしれません。
「認知症が進んだ」と思われる行動の背景に、視力の低下や痛み、不安が隠れている可能性
もあります。
リスク要因をチェックするだけではなく、その人の生活がどこから、どのように縮小してい
るのかを見る視点が必要となります。

◆自分の努力でなんとかできるものがある一方で、それが難しい項目もあります。
教育の機会、大気環境、社会的孤立、医療へのアクセスなどは、本人の努力だけで変えるの
は容易ではありません。
そのため、認知症予防を「本人が健康に気をつけること」だけに還元すると、支援を必要と
する人ほど取り残されます。
個人への働きかけと同時に、地域や社会の環境を整えることが必要です。
自分の努力で…と書きましたが、それ自体も私たちが思うほど簡単なことではありません。

◆介護事業所には、このリスクの連鎖を断ち切る可能性があります。
・住環境や食生活に関してアドバイスをし、改善の支援を行う。
・送迎によって外出を支える。
・会話や役割をつくる。
・本人が選ぶ機会を守る。
・聞こえや見え方の変化に気づき、医療につなぐ。
・運動を目的化するのではなく、買い物や交流など本人にとって意味ある生活行為の中で
体を動かしてもらう。
これらは目新しいプログラムではありません。
でも、14のリスク要因という視点で見直せば、日々の介護が認知症予防と深くつながって
いることが分かります。

◆認知症になった人を支えることだけが、介護事業所の役割ではない。
利用者の生活が縮小する兆候に気づき、人や地域とのつながりを守ること。
そして、そこで働く職員自身の健康と未来を守ること。
14のリスク要因を知るとは、新しい取り組みを一つ増やすことではありません。
私たちが提供している介護の意味と、組織のあり方を、もう一度根本から問い直すことだ
と思うのです。

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紹介したLancet報告の中で特徴的なのは、14項目のうち10項目が中年期に位置づけられ
ていることです。
私や購読者の多くは、認知症のある人を支援する側であると同時に、自らもこれらのリスク
と向き合う年代にいます。
介護の仕事に限らず、日々の生活の中でストレスを感じることは多いはず。
そして慢性的な疲労が続けば、運動不足、睡眠や食生活の乱れ、メンタル不調などにもつな
がります。
自分自身や職員の健康を「本人の自己管理」で終わらせず、業務量、休憩、勤務配置、相談
体制まで含めて考える必要があります。

それらを放置したまま迎える未来は…
認知症は自分達の問題です。