[ケアビジネスSHINKA論 Vol.2921]

新しい認知症観

みなさん、おはようございます。
金曜日のメルマガ担当、ケアビジネスパートナーズの尾添です。

昨年にも何度かテーマとして採り上げた認知症について。
ちょうど昨年1月に「認知症基本法」が制定され、また9月には「認知症施策推進基本計画」
が発表されるなど、政府もその課題や重要性の認識を強めています。
業界でも、認知症に対する知識やスキルの習得は必須化されており、現場においても避けて
は通れないテーマでもあります。
改めて考えてみたいと思います。

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■■新しい認知症観
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◆『認知症になってもできること・やりたいことがあり、住み慣れた地域で仲間とつながり
ながら、役割を果たし、自分らしく暮らしたいという希望をもって生きる人』
政府は昨年9月の認知症施策推進基本計画において、認知症の人に対して新しい認知症観と
名付けてこう定義しました。
認知症当事者やその支援者が長年訴えてきたことが明文化されたもの。
昨年1月に施行された認知症基本法の正式名も『共生社会の実現を推進するための認知症
基本法』です。
時代は変わり、そして認知症に対する理解や認識も大きく進展しました。

◆認知症施策について、長年「生活派」と「医療派」の綱引き状態にあると言われています。
認知症を病気として捉えるかどうか。
そして、「予防・治療」を重視するのか「共生」を考えるのか。
2000年代前半から認知症は少しづつ社会問題として認識され始めましたが、当初は「何もか
も分からなくなり何もできない人」「人格喪失者」など偏見をもたれることが多くあり、今
につながっています。
なにせ、もとは認知症“患者”とも呼ばれていたのですから。
家族として、また支援者としてなど当事者と関りを持つ人であれば、こうした偏見を一方的
に「間違っている」と切り捨てることは出来ないでしょう。
それでも言うまでもなく認知症の有無に関わらず本人の意思は尊重されるべきであり、不当
な扱いを受けるようなことは許されません。
そうした想いや考えを政府は『共生』という言葉に込め、業界だけでなく全国民に訴えます。

◆生活派が主張するのは「自宅⇒グループホーム⇒病院(精神科)」といった不適切なケア
の流れを変え、むしろ逆の流れを目指すべきだというもの。
住み慣れた自宅や地域で暮らし続けるべきという「在宅重視」を掲げます。
一方の医療派と呼ばれる人たちが主張するのは「認知症の人には精神科医療が欠かせない」
という点。
医療は介護サービス事業者への後方支援と司令塔機能を持ち、専門的医療サービスを長期的
に提供する役割を担うというものです。

◆医療派は症状の改善に焦点を当てる一方、生活派は患者の生活の質を重視しており、この
ため資源の配分や政策決定において意見が分かれます。
でも、どちらが正しいとか重要という対立構造には無いはず。
それでも対立するように言われるのは、医療資源や予算の配分に関して治療に重点を置くか、
生活支援に重点を置くかで意見が二分しやすいから。
限られたリソースの中、どの方針に優先的に投資するかは大きな問題であり、それゆえ政府
にもそれぞれ正当性を主張し続けるのです。
また成果の測定基準という点で考えても、治療効果を科学的な(定量的な)データや統計に
基づいて評価するのか、当事者の幸福感や生活の質といった定性的な要素を重視するのか、
大きな違いです。

◆医療派と生活派という書き方をしましたが、業界・事業の観点から医療と介護に書き換え
ても考えることができます。
それぞれ専門分野や役割に違いがあるため、どうしても相容れない部分もあるかと思います。
それでも、やはりどちらが大切とか偉いとか等の議論はナンセンス。
ただ一点、相手の主張を認めようで終わってはいけません。
医療は介護の、介護は医療の主張や役割に目や耳を傾け、理解し、連携できる方策を考える。
そして現場において行動につなげる。
これこそ『地域包括ケアシステム』が目指す姿ではないでしょうか。
現状、自分たちの仕事に直結すること以外について、あまりに知らなさすぎます。

◆日本では2021年時点で約600万人がいわゆる認知症とされ、65歳以上の高齢者の約15%
が認知症と診断されています。
そして、この数は2030年には約700万人に達すると予測されています。
一時期は新薬の国内承認をめぐるニュースなどで話題となりましたが、最近は目や耳にする
機会があまり多くない印象です。
私たちにとって身近かつ大きな問題であるはずなのに。
いま一度、政府や保険者の発表資料、またメディア記事などに目を通し、その本質について
考えてみることも大切ですね。

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今週末は介護福祉士の資格試験があります。
私の周りでも受験する人が多数。
こうした資格を目指すにあたり、テキストや教材を通じて介護保険の基本理念や歴史について
改めて学ぶ機会はとても重要ですね。
現場や自分の仕事とのギャップを知ることを含めて。
自分のことを振り返っても、資格勉強で知った『ICF』の概念への衝撃が今につながります。

受験する人、がんばれ!!
どうか体調万全で本番を迎えてください!