[ケアビジネスSHINKA論 Vol.3093]

職員間のハラスメント問題

おはようございます。?金曜日のメルマガ担当、ケアビジネスパートナーズの尾添です。

先日、ある有料老人ホームの運営者から、人材に関するご相談をいただきました。
「今年採用した5名の職員が、全員半年以内に辞めてしまった」 というのです。
業界あるある、などと軽く論じられない事態。
その背景などお聞きした内容をもとに考えてみたいと思います。
(お聞きした通りではなく一部脚色しています。)

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■■職員間におけるハラスメント問題
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◆退職に至る原因を伺うと、特定の既存職員による「厳しい指導」が原因とのこと。
「何回も教えたでしょ」「そんなこともできないの?」など指導中に口を吐いてしまい、指導
担当から外しても、すれ違いざまに溜息混じりのキツい一言を浴びせてしまう。
結果、新人は萎縮して組織に溶け込めず、自信を喪失して退職につながったと言います。
全く同じではなくとも、どの職場でも起こり得る、また起こったことのある事例ではないで
しょうか。

◆この事例の本質は個人の性格の問題ではなく、「指導という名の攻撃」を許容してしまって
いる組織風土にあるとも言えます。
「技術は見て盗め」「厳しく育てて一人前」という職人堅気な文化が介護現場にはある、そん
な考えを持つ人は少なくないと思います。
しかし時代は変わりました。
今や心理的安全性のない職場は、単に「人が定着せず逃げてしまう」場所でしかありません。
「過去の成功体験」や仕事ができる人特有の「不公平感」という人間心理も潜んでいます。

◆「自分たちができたのだから他人もできるはず、やるべきだ」といった思い込みがあるのか
も知れません。
新人の「打たれ弱さ」や「覚えの悪さ」といった面が、単なる能力不足ではなく「甘え」に見
えるのかも知れません。
悪気があって攻撃しているケースばかりではなく、「プロとしてその程度のレベルで現場に立
つな」というその職員なりの正義感、またそもそも他者の鈍臭さへの生理的嫌悪の現れとも
考えられます。
また、例えば能力格差と賃金の不一致(自分は1時間で10の仕事をするのにあの人は3しか
できない上に、そのフォローまでさせられる。でも時給は数百円しか違わない)なんて感情
があるのかも。
この状況で「優しく教えろ」と言われれば「ふざけないで」と感じてしまうことは想像に難く
ありませんし、自分のペースを乱されることは、業務遂行能力が高い人ほどストレスになるで
しょう。

◆このようなケースは単に人材の定着だけでなく、経営やマネジメントの立場から考えると
法的リスクとしても無視・放置できません。
2022年4月より、中小企業を含めパワハラ防止法(労働施策総合推進法)が全面施行されて
おり、事業主にはハラスメント防止措置を講じる法的義務が求められています。
「注意したけれど治らない」で放置し、もし被害者が精神疾患等を患った場合には安全配慮
義務違反として法人や経営者個人が損害賠償請求を受けるリスクがあり、これは個人の資質
の問題ではなく重大な経営課題となり得ます。

◆政府は「全世代型社会保障」の構築に向けて介護人材の確保を急務としていますが、少子化
が加速する中、もはや「即戦力の日本人」だけで現場を回すことは不可能です。
今後は、介護未経験者、高齢者、そして外国人材の受け入れが必須となります。
日本人同士ですら萎縮させるコミュニケーションをとる組織のままで多様な人材を受け入れら
れるでしょうか。
処遇改善加算の要件にも「職場環境等要件(資質の向上や労働環境の改善)」が加えられてい
ますが、業界としても重視されています。
悩ましい問題ではありますが、単に一人の職員をどうしようかという話ではなく、10年後も
20年後も生き残れる組織になれるか」という分岐点だと認識しなければなりません。
専門家への相談も含め、真剣に考える必要があります。

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公益財団法人介護労働安定センターの「令和5年度 介護労働実態調査」によると、介護職員の
退職理由として「職場の人間関係に問題があった」は常に上位(15?20%)を占めていると
のこと、肌感覚としてもう少し多いのでは…とも感じます。
また採用・教育コストの損失という経済面から考えても、小さな問題ではありませんね。