[ケアビジネスSHINKA論 Vol.2556]

介護退職・離職 ~今そこにある危機~

みなさん、おはようございます!
毎週金曜日の担当、ケアビジネスパートナーズの尾添です。

先週のメルマガで読書が趣味と公表しましたので、今後は記憶に残る書籍についても紹介でき
ればと思います。
さっそく今回、人気小説家である楡周平さんの『介護退職』という本を採り上げます。
ここ最近、仕事で介護離職に関する打合せや相談を受ける機会が増えています。
そんな中で思い出したこの本、久しぶりに読み直しました。

・・・・
というわけで、さっそく本日のメルマガです!

──────────────────────────────
■■
■■介護退職・離職 ~今そこにある危機~
■■
──────────────────────────────
◆楡周平さんと言えば『Cの福音』や『蜜蜂と遠雷』でご存じの方もいらっしゃいますかね。
この『介護退職』の初版は平成26年、今から9年前ですが、それほど有名ではないかも。
私もたまたま書店で見つけて、仕事がらタイトルに惹かれて購入しました。
今では一つの社会問題と言われている介護退職(離職)について、まだ世間で認知される前に
テーマとして採り上げた小説であり、日本の未来を予測する内容であると堺屋太一さんなどが
絶賛されていた記憶があります。
どんな内容かと言いますと・・・

◆秋田県に1人暮らしの母親を残したまま東京で生活をする主人公。
妻と名門私立中学を目指す息子と3人で不自由ない生活を続け、仕事でも順調にキャリアを重
ねて取締役の椅子は目前と言われるほど活躍している中、一本の電話が彼の人生の歯車を狂わ
すこととなります。
独居の母親が雪かき中に倒れて骨折し、幸いに発見されたものの、その後に長引く入院により
足腰は弱り、そして認知症の疑いまで・・・
それからは離れて暮らす母親の介護問題、それに振り回される家族や親族とのしこり、そして
不幸な出来事の連続・・・
まさに“今そこにある危機”を真正面からリアルに描いた本です。

◆その本の最初のページに書かれた“はじまり”の文章を紹介します。

「大学で東京に出るのは自然なことだった。
そのまま職を東京で求めることもまた、自然なことだった。
田舎に両親を残すことなど、気にも留めなかった。
父母がやがて老いる時のことなど考えもしなかった。
だけど今にして思う。
親子の絆が断ち切れぬものである以上、その時のことに備えておくべきだったと・・・。」

◆母親のことだけではなく、それがキッカケで表面化する兄弟、妻子、親戚との間の問題。
代々続く家で生まれた長男としての葛藤。
なんとか母親を東京に呼び寄せることができたのも束の間、妻が介護疲れからかクモ膜下出血
で倒れ、出張や残業を含め部長として十分な仕事ができなくなった会社では長年取り組んでき
た大きなプロジェクトの成功(そしてその先の取締役ポスト)を目前にしての左遷人事。
あぁ痛い・・・読んでるこちらの心が痛い・・・です。

◆小説から現実の話に変わりますが、先日、友人を通じてとある経営者の(親に関する)相談
を受けました。
一族経営の会社で、まだ先代である父親だけでなく母親も営業や経理で仕事をしているなか、
その母親が転倒して骨折・入院したのを境にして認知症の疑いが・・・
たまたまの偶然なのですが、どこかで聞いたようなストーリーに驚きました。
同居してはいるものの、いや同居しているからこそ、どう接してよいか分からない。
本人は仕事も家事も自分の役割と譲ろうとしませんが、ミスが目立つようになったそうです。
出張で家を空けるのが怖くなり、何より経理・総務など重要な仕事を任せたままで良いのだろ
うかと思い悩んでいらっしゃいました。
どこの誰に相談すればよいか分からず、かと言って両親のことも良く知っている周囲の経営者
仲間には話ができない、したくない。
単にケアマネやデイサービスを紹介されることではなく、とにかく話を聞いて相談に乗って
欲しいんだ、と。

◆このような相談、皆さんも受けることが多いかも知れません。
日ごろ付き合いのある同僚や友人が、そんな素振りは見せないけど実は悩んでいるのかも知れ
ません。
皆さんの中にも、まさに当事者として抱えている方もいらっしゃるのかも知れません。
そんな時に友人として、配偶者として、兄弟として、会社で言えば上司として、人事部として、
社長として・・・
異変に気がついてサポートできているでしょうか。
周囲に相談できる人がいてサポートを受けられているでしょうか。

◆介護退職(離職)問題は、まさに“今そこにある危機”として無視できない課題です。
福祉に携わるものとして何ができるのか、何をするべきか。
この問題は、これからも考え、そして採り上げていきたいと思います。

──────────────────────────────
以上、何かのお役に立てれば幸いです。

実際に介護離職する人は、全国で年10万人を超えると言われています。
掴めていないデータもあるでしょうし、退職に至らずとも大きなストレスを抱えて悩んでいる
人は多数かと思います。
最近ではヤングケアラーの問題も耳にすることが増えましたし、障害者(児)を抱える家族の
葛藤も他人事ではありません。

参考までに、採り上げた小説の情報は以下の通りです。
◆介護退職 楡周平 祥伝社文庫

みなさん今週もお疲れさまでした!
素敵な週末をお過ごしください!!