“苦しみを共に生きる”~あるご利用者との物語~

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介護経営エナジャイザー 原田匡が日々感じたこと・考えていること、介護
経営に役立つ情報等をお届けします!
(※)エナジャイザー:エネルギー(energy)や活力を提供する人
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本メールは名刺交換、セミナー、問合せ等を通じて原田匡と接点があった
介護事業者及びその関連の方々に送信させていただいております。
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おはようございます、CB-TAG
(シー・ビータッグ)の原田匡です。

今日は3連休明けのせいか、

過去最長のメルマガで、いつもの倍
ぐらいになってしまいましたので、

覚悟してお読み下さい(苦笑)。

ご存知の方も多いかと思いますが、

私は全国の介護事業者様の支援活動
だけではなく、自社で

“あずゆあはうす”

というデイサービスを経営しています。

あずゆあはうす=As Your House。

「あなたの家のように、自由に過ごして
下さいね。」

という意味を込めてつけた名前です。

生活リハビリを軸に日々、個別ケアに
取り組んでいるのですが、

生活リハ、個別ケア、と言っても非常に
抽象的で、

私たちのケアへのこだわりがなかなか
伝わりずらい、

ということから、うちでは、ご利用者様
との間で日々おこるドタバタ劇を

“物語”

にして外部に公開しています
(名前以外は全て実際の出来事です)。

今日は、その中から、私たちのケアに対する
想いのこもった物語を1つ、ご紹介させて
いただきたいと思います
(これが長くなった理由です(笑))。

若年性認知症のご利用者との物語で、題名は

“苦しみを共に生きる”

です。※小見出し、と書いてあるのは段落のタイトルです

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「オーライ、オーライ! はい、ストーップ!」

ご利用者様を乗せた送迎車が「あずゆあはうす」に
到着しました。

元気な声で車を誘導するのは、沢井裕一さん(仮名)。

皆さんが降りおわると、沢井さんは車のそばにかがみ
こみ、慣れた手つきでタイヤの点検をします。

「ちょっとタイヤの空気圧が低いみたいだよ、今度、
見てもらった方がいいかもしれない」

「そうですか。ありがとうございます、そうさせて
いただきます!」

スタッフが答えると、沢井さんはニッと笑って、
洗車の準備にとりかかりました。

働き者の沢井さんは、午前中いっぱいをかけて
丁寧に車を磨きあげます。

「沢井さーん、お昼ですよー」

「はいよー!」

12時きっかりになると、ホースや洗車道具を
片付け、ようやく中に入って休憩を取る・・・

これが、沢井さんの日課なのでした。

(小見出し1:)初めての試み

沢井裕一さん、59歳。「あずゆあはうす」の
ご利用者様のお一人です。

沢井さんは、2007年に心筋梗塞を患い、
それがきっかけで運転手の職を失います。

そのころから記憶障害が出始め、病院で
「若年性アルツハイマー」の診断が下されました。

元来、働き者の沢井さんは家でじっとしているのも
もどかしかったのでしょう、

自分では仕事のつもりでお隣の庭を掃除したり、

よそのお宅の自転車修理などをしはじめてしまいます。

「ヘンな人がいる」

次第にご近所との関わりがうまくいかないように
なってしまいました。
 
ご家族のいない沢井さんは、亡くなったお母さまの
友人である幸子さん(仮名)が一緒に暮らしています。

幸子さんから事情を聞いた包括支援センターから、
私たちに相談があったのは、2010年の8月のことでした。

「あずゆあはうす」には、もちろん認知症になられた
ご老人もいらっしゃいます。

でも沢井さんは、まだ50代。

体も健康で、身の回りのことはほとんどできる
沢井さんに、90歳の方と同じ生活リハビリをして
いただくわけにはいきません。

「どうしよう、どう受け入れる?」

「もしかしたら、お給料ももらえる作業所に
通った方が、沢井さんのためになるんじゃない?」

スタッフ一同、そんな思いを抱えたまま、
沢井さんが来る最初の日を迎えました。

(小見出し2:)私たちは「仕事仲間」

「なんか、することないっすか?」

沢井さんは、開口一番、ニコニコしながら
そう言います。

「えーっと、じゃ、車を洗ってもらえますか?」

「はい! 任せてください!」
 
思わぬ申し出に戸惑いながらも、洗車をお願いしました。

8月の猛暑をものともせず、沢井さんはもくもくと車を
磨きあげてくれます。

次の日も、沢井さんは来るとすぐ、洗車を始めます。

その次の日も、またその次の日も・・・。

炎天下、沢井さんは休憩をとることも忘れて、
生き生きと洗車をするのでした。

このままでいいとは決して思えない、

けれど私たちスタッフには、沢井さんの支援を
どうしていったらいいのか、まだ具体的な答えは
出せていませんでした。

そんなことが続いたある日。

「新しいスタッフさんが入られたんですねぇ」

元気に働く沢井さんが、とてもご利用者様には
見えなかったのでしょう、

ご近所の方があいさつがてら、こう言われたのを
聞いて、スタッフはひらめきました。

「そうだ! 沢井さんには、ここには仕事で来て
もらうっていうことにしてみませんか?」

沢井さんは、ここのスタッフ。

私たちは、沢井さんの仕事仲間。

ここで仕事をしてもらうことが、沢井さんの支援に
なるのではないか・・・。

そう考えてみることにしたのです。

次の日から、沢井さんとのあいさつが変わります。

朝、来た時は、

「お疲れさまです! 今日も一日、よろしくお願い
します!」

すると、沢井さんも、

「オス! なんでもやるから言ってね!」

今まで以上に生き生きと答えてくれます。

帰るときも、

「沢井さん、お疲れさまでした! 次の出勤は、
木曜日です」

その日にやってもらった仕事を書き込んだ沢井さん
専用の『業務日誌』に、担当のスタッフがハンコを
押して、今日の仕事は終了。

「おう! じゃ、また来るからな」

そう言って、笑顔で帰っていくのでした。

(小見出し3:)思わぬ出費、荒れた庭。それ以上の収穫
 
「ひえ~! 水道代が・・・!」
 
郵便受けに届いた水道代の明細書を、なにげなく
見たスタッフは、ビックリ!

「今月の水道代、4万円です!!」

沢井さんの洗車が続いたおかげで、水道代が
とんでもなく跳ね上がってしまいました。
 
「どうする? 沢井さんに、洗車やめてもらう?」

でも・・・。嬉々として「仕事」に取り組む
沢井さんに、

水道代がかかるから止めてくれとはどうしても
言えません。

「いいよ、私たちで節水しようよ! ほら、台所から
チョロチョロ出てるやつ、ああいうの、止めてまわる
とかさ。水は少しずつ出して使うようにしよう!」

一軒家の小さなデイサービスである私たちにとって、
4万円の水道代は、確かに高い。

けれど、それ以上に大事なものが私たちにはありました。

そして、沢井さんには洗車だけではなく、違うお仕事も
頼んでみるようにしました。

「沢井さん、芝生の間に生えてる雑草を取ってもらえ
ますか?」

「おう、任せとけ!」

数日後。ふと庭に目をやると、

「あっ! なくなってる!」

雑草がキレイに取り除かれています。

正確には、雑草だけでなく、芝生も、色とりどりの
草花までも・・・。

庭の一角からはじまって、フカフカの芝生がどんどん
抜かれているのです。

緑色の芝生が黒々とした土に替わり、

日を追うごとに、土の部分が増えていくのが分かり
ました。

「・・・どうする?」

正直なところ、いくらお仕事が支援になるとはいえ、
芝生まで抜かれては・・・

と疑問がないわけではありませんでした。

「この間は、水道。今度は芝生かぁ。庭はドロドロに
なっちゃってるしなぁ」

「そうだよね、せっかく植えたのにねぇ」

「でもさ、きっと沢井さんには、芝生と雑草の違いが
分からないんだよね」

「うーん・・・いいよ!また植えればいいさ。
芝生もまた生えてくる!春になったら、もう一度、
花、植えましょう!」

本当に抜いてほしくない草花は、囲いを作って、

「沢井さん、ここは抜かないでくださいね」と

お願いしました。

そして新たにゴーヤを植えて、沢井さんには毎日
水やりをお願いすることにしました。

おかげで、夏の終わりには、カゴに山盛りのゴーヤを
収穫です!

「これ、沢井さんのゴーヤだよ」

毎日の食卓にも、栄養たっぷりゴーヤのおかずが
並びました。

秋が来れば、落葉掃き。

ときには、ご利用者様の話し相手。

生まれ故郷のお話をすることもあります。

寒くなってきたら、家の中で料理の手伝い。

沢井さんが作る豪快な料理は『男料理』と名づけられ、
私たちのお腹を満たしてくれました。

「沢井さん、すいません、今日カラオケ大会やりたいん
ですけど、手伝ってもらえますか?」

沢井さんが働き過ぎないよう、でも、あくまでも
「仕事」の一環として、カラオケ大会を開いたりも
しました。

そんなときは、十八番の石原裕次郎を披露してくれるのです。

ふるさとを語り、おはこを歌い、仕事の充実感を味わう。

沢井さんにとって、ここで生活することは間違って
いなかったんだと、私たちも確信し始めていました。

そんな生活が1年ほど続いた2011年の9月下旬。

沢井さんは目の感染症にかかってしまい、

1ヶ月という長いお休みをとることになります。

「悪いね、みんな大丈夫かな。治ったらまた来るからさ」

沢田さんは私たちを気遣いながら、申し訳なさそうに
言います。

連日、炎天下の洗車や草むしりに精を出してくれた
沢井さん。

なにしろ

「休憩ですよ」

と声をかけるまで、ろくにお茶も飲まないで、外仕事を
続けてくれるのです。

「ちょっと頑張ってもらい過ぎちゃったかな」

沢井さんの真っ黒に日焼けした腕を見て、ちょうど
いいお休みになるかもしれないと思いました。

「大丈夫ですよ。ゆっくり休んできてくださいね」

11月になったら、どんな仕事をしてもらおうか。

そうだ、沢井さんの、職員用ネームプレートも用意
しよう。

そんなことを考えながら、お休みに入る沢井さんを
見送りました。
 

(小見出し4:)新たなステージ

「今日からまた、沢井さんが来るって!」

目の病気が治った沢井さんが、今日から「出勤」です。

あの沢井さんが戻ってくる! 

今日は何をしてもらおうかなぁ。

そう思っていたところに、さっそく沢井さんが到着しました。

「あ・・・」

そこにいたのは、以前の沢井さんではありませんでした。

確実に、アルツハイマーの症状が進んでいる。

それはスタッフ誰の目にも明らかでした。

お仕事を頼んでも、以前のように手際よくヒモを
結ぶことができなくなっていました。

食事をしていても、途中で食べ方が分からなく
なってしまい、手が止まる・・・。

老人性認知症と違い、若年性アルツハイマーは、
いくつかの段階を経て症状が悪化していきます。

箸の使い方を忘れる、帰り道が分からない、徘徊、
物盗られ妄想・・・

階段を下りるように少しずつ症状が進み、

ある程度のところでまた安定するのが、若年性
アルツハイマーの特徴。

そして最終的にはほとんど何もできなくなってしまう
まで、脳の委縮は続きます。

沢井さんは、まさにその階段を下りはじめたところでした。

私たちを、仕事の仲間として信頼してくれている
沢井さんは、夕方になると不安がいっそう込みあげるのか、

日が傾くころになるとスタッフにつぶやきます。

「俺、大丈夫かな・・・」

「今日、誰も迎えにこなかったら、俺、どうなっちゃう
のかな・・・」

「大丈夫ですよ、うちの方が必ず迎えに来られますよ」

そう答えると、少しだけ安心した顔をする沢井さん。

これから先、沢井さんが何ヵ月かけて階段を下りていく
のか、その間に、どんな症状が現れ、どんなことが
できなくなっていくのか、誰にもわかりません。

でも今、一番とまどい、苦しいのは、沢井さん自身で
あることは間違いないのです。

沢井さんの苦しみを、私たちも共に生きる。

その決心を

「これからまた、新たな支援がはじまるよ」

と、スタッフ全員、あらためて心に刻みます。

これから私たちができることは、ありのままの不安や
苦しみを受け止めて、

「何度も話を聞きますよ」

と語りかけること。

そのときそのときの沢井さんに必要な支援を、惜しまず
続けること。

どんなに同じことを聞かれても、何度でも答えていこう、
そうスタッフで話しています。

また、沢井さんに少しでも長くここに通ってもらう
ためには、幸子さんへのサポートも必要になります。

幸子さんが頑張り過ぎて行き詰まらないように話を
聞いたり、

ときには沢井さんを泊まりがけでお預かりして、
幸子さんにゆっくり夜を過ごしてもらったりすることも
大切になるでしょう。

次のステージへ。

沢井さんと共に、私たちも歩みます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

僭越ながら、

“生活リハ”“個別ケア”という言葉だけでは伝わり
きらない、

私たちのこだわりを感じていただけたのではないで
しょうか?

私は、この物語こそが、自社の商品としての価値を
表現してくれている、と思っています。
(ちなみに当社にはこのような物語が他にも10数話
あり、まだまだこれからも増やしていく予定です)

“尊敬”“尊厳”“気持ちに寄り添う”“個別ケア”
等々、

介護の世界で使われる言葉は非常に抽象的で当たり前
に感じられるようなものが多く、

その言葉の裏や奥にある

“こだわり”
“思いの深さ”

等々を伝えることはなかなか難しいものです。

でも、この物語、という方法を採れば、適切に伝わる
のではないか?と私は思い、続けています。

私は様々な業種・業界を見てきましたが、

介護の仕事ほど

“感動”

が多い仕事に出会ったことはありません。

勿論、キレイな話ばかりではなく、現場では
本当に大変なことも沢山起こっています。

でも、どちらの部分に自らの心の軸足を置いて
仕事に取り組むのか。

それだけで私たちの毎日は大きく変わってくるの
かもしれません。

私はそんな想いで日々、頑張っておられる介護事業者
様をこれからも応援したいと思っていますし、

私がいない間、同じ志を持って頑張ってくれている
我が社のメンバーに心から敬意と感謝を表したいと
思っています。

今日はふと、そんなことを皆様に伝えたくなり、
メルマガに取り上げさせていただきました。

以上、何かのお役にたてれば幸いです。

今日は、都内で打合せ。
その後、更なる面談の為、東北へ飛びます。

では、今日も1日、互いに頑張ってまいりましょう!

今朝もお付き合いいただき、ありがとうございました。
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幸せに出来る会社=「Visionary Care Company」を多数創出し、介護業界
活性化の中心的存在となる。
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