[ケアビジネスSHINKA論 Vol.3081]

穴の空いた水道管

今週水曜日の原田メルマガの冒頭で、財務省で今月5日に行われた財政制度分科会での意見
の一部が紹介され
ました。
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/20251105zaiseia.html
「いつも財務省は厳しい意見を出し、ここから折り合いをつけていく」なんて言われますが、
一読した印象として、あまり楽観的に受け取らない方が良いのでは…と感じました。
その辺りについて書いてみます。

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■■穴の空いた水道管
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◆例え話から。
穴が空いて水漏れしている古い水道管を想像してください。
その水道管を前に、水を求める2人が違った対処案を提案します。
皆さんであれば、どちらに賛同されますか?
1)蛇口から出る必要な水を確保するために水量を増やそう
2)まずは水道管を修理し、少ない水量で効率的に水を運べるようにしよう

◆上記の例え話に出てくる単語を言い換えてみます。
○水道管   ? (産業)構造
○古い水道管 ? 非効率な産業構造
○水を増やす ? 公費を投入する

◆この前提で、原田が紹介した財政制度分科会(財務省)の意見サマリーを振り返ります。
参考資料の社会保障①に記載されている、コスト構造の見直しに関するサマリーです。
『医療・介護産業は、過去30年間、物価や賃金が停滞する中で、医療費・介護費の増が賃金
に十分還元されず、生産性が伸び悩むまま就業者数を増加させてきた。
労働供給制約が強まる中で成?型経済の実現に寄与するとともに、医療・介護従事者の一人
当たりの収入を構造的に増やしていくためには、より少ない就業者で質の高いサービスが提
供できるよう、効率的で持続可能な産業構造への転換が不可欠。こうした視点に立って改革
を推進する必要(がある)。』

◆いかがでしょうか。
言葉を悪くすれば「甘えるな」と言われているように感じます。
社会保障費の増加が国の財政を圧迫する中で、単に公費(税金や保険料)を投入して報酬や
補助を増やすだけでは構造的な問題解決にはならないという財務省の立場に基づくもの。
具体的には、医療・介護のコスト増=従事者の賃上げという単純な図式ではなく、「より少
ない就業者で質の高いサービスが提供できるよう効率的で持続可能な産業構造へ転換する
こと」こそが賃金構造を改善する唯一の方法である、と受け取ることができます。

◆介護・福祉のような対人サービス業は、製造業や情報通信業のように機械化やデジタル化
によって投入労働量を劇的に減らして生産性を向上させるのが難しいという側面があり、
業界に関わるものとしてその意見にも賛同したい気持ちもあります。
でも一方で、デジタル化を含めた業務効率化への対応の遅れ、また社会保障制度構造その
ものへの依存体質など自分たちの課題であるとの認識も強くします。
次回2027年度の報酬改定に向けて厚労省内でも厳しい意見が飛び交っています。
「どうせ最後は軟着陸」なんて軽く考えないほうが良いような気がします。

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ちなみに例え話で出した1)と2)の対処案について、どちらが正解とは言えませんね。
緊急の場合には1)だって必要な対処です。
「短期的な緩和」か「長期的な持続可能性」か。
政府が進める物価高対策も同様です。