厚生労働大臣が10月31日の閣議後記者会見で、2027年度に控える次の介護保険改正の焦点
となっている利用者負担の引き上げに関して言及したとの記事を目にしました。
議論自体はずっと以前から起こっていますが、高齢者世代に負担増を強いることには慎重な
意見が多く、「とりあえず議題には出しますが…」といった扱いが続いてきた印象があります。
さて今回はどうでしょうか。
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■■応能負担
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◆先述の厚労大臣は以下のように述べています。
「制度の持続可能性を維持する、あるいはサービスの質を確保するためには、高齢者の皆さん
に能力に応じて負担を求めていくことも必要」
背景には、介護保険制度そのものの危機的状況があります。
いわゆる2040年問題とも言われますが、2018年度に約10.7兆円という実績だった介護給付
費は、高齢者人口のピークを迎える2040年度には約25兆円にまで増加すると予測されてい
ます。
現役世代の負担を増やし続けることも難しく。。
制度の持続可能性を考えれば、もう先送りできない限界に来ています。
◆多くの方がご存知のとおり、介護保険サービスを利用した際、高齢者自身も一定の負担を
しています。
原則はサービス費用の1割負担ですが、年収や資産など条件に応じて2割・3割の方もいらっ
しゃいます。
その数は、2割・3割負担の対象となっているのは要介護認定者全体のうち8.9%(2024年
6月時点)。
このパーセンテージが高いか低いかは軽々しくは申せませんが、応分の負担を求めるというこ
とで、この2割・3割負担の基準を見直す動きが出ているのです。
とはいえ、いきなり負担増だと言われても反発の声が高まるばかり。
実際の議論内容を見てみると、激変緩和措置の導入(突然の負担増ではなく数年かけた段階的
な移行)、世帯単位での評価(個人所得だけでなく世帯全体の経済状況を考慮した負担設定)、
地域差への配慮(物価や所得水準など地域差を反映した柔軟な基準設定)など、具体的な導入
シミュレーションが考えられています。
◆今のままでは制度そのものが維持できないとの危機感は多くの方が持っているかと思います
が、応能負担見直しの議論へは反対や慎重な声も多数あります。
物価高騰が続く中で高齢者の生活がすでに厳しくなっており、さらなる負担増を求めることは
できないと言う声。
そしてその先に、利用控えの懸念も聞こえてきます。
2015年の2割負担導入時には、対象となった高齢者の一部でサービス利用量の減少が確認さ
れています。
サービス利用を控えることで心身の状態が重度化し、結果的に介護費用が増加すれば、これは
本末転倒と言えます。
制度の持続可能性確保のために負担増が避けられないとしつつも、社会情勢や経済実情を踏ま
えながらの配慮も必要です。
また負担が不可欠だとの結論となったとしても、なぜ負担増が必要でどう使破れるのかといっ
た「透明性」や、所得や資産状況などを踏まえた「公平性」など、しっかりとした設計と説明
も求められます。
◆ただ、これは制度を議論する厚労省や有識者の問題ではありません。
財源という大きな問題を単純に考えれば、入(利用者の負担増)が叶わなければ出(事業者へ
の報酬)を抑制するしかありません。
また利用者に負担増を求める前に、行政や事業者が生産性向上に最大限取り組む姿勢や成果を
示すことが求められます。
これが昨今話題となっている生産性効率化の背景だと考えます。
また利用者負担を増やすとなれば、それに見合う質の高いサービスを提供する責任を事業者が
求められることにもなります。
応能負担の議論、ただ実情にあわせて利用者負担を見直すにとどまらず、業界そして事業者に
大きな影響を与える問題なのです。
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医療業界でも同様の議論があります。
ただ医療と介護には違いも存在し、一括りには考えにくいです。
介護の場合「治れば終わり」とはいかず、いったん始まれば原則として終身的・継続的な支援
となります。
『応能』の落とし所、難しい問題ですね。