介護業界でよく耳にする「シャドーワーク」という言葉。
少し前に業界で有名な某サイトでも採り上げられていましたし、厚労省の審議会における議論
(議事録)にも登場しています。
これからもキーワードとして目にする機会が増えるかもしれません。
英語で表現すると分かりにくくなるのですが、その本質は何なのか考えてみたいと思います。
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■■シャドーワーク
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◆シャドーワークとは、ある哲学者が提唱した概念であり「報酬を受けない影の仕事」を指す
言葉です。
業界内でこの言葉が使われるのは、例えばケアマネジャーが行う報酬対象外の業務や介護現場
で発生するケア業務以外の「見えない作業」など。
試しに[シャドーワーク 介護]などキーワード検索してみると、やはりそこには「介護現場
において給与や報酬を直接受け取ることなく行われる仕事のこと」など説明されています。
そして冒頭文でも紹介しましたが、「介護業界におけるシャドーワークが問題だ」など有識者
会議で堂々と話し合うから、この言葉は“悪”の象徴のように認識されています。
◆言葉の定義を否定することはできませんが、個人的にこの「シャドーワーク」は本来、事業
や組織において重要であり、報酬面を含めて認識・評価されるべきものだと考えたいです。
影(シャドー)だからと言って「報酬がないんでしょ、意味ないやん」など思いたくはない。
そういうのは「アンペイド(無報酬)ワーク」と言うのでは。
この2つの言葉、似て非なるものだと考えるのです。
◆確かに、過度なシャドーワークは職員の負担増大や離職率上昇にもつながる課題です。
しかし、全てを「アンペイドだから問題」と一刀両断してしまうことは組織運営において大き
なリスクを抱えることになります。
これらの「見えない配慮」こそが、チームワークの核心部分を担うこともまた真実なのです。
「後工程の同僚のために資料を整理する」
「新人スタッフが困らないようオフィシャル以外にも準備をしておく」
「利用者の家族が安心できるよう一言声をかける」
これらは単なる無償労働ではなく、組織の結束力と信頼関係を築く重要な要素です。
現代組織論では、チームワークの向上において「メンバー同士の思いやり」が重要な要素とし
て位置づけられています。
介護という仕事は本質的にケア(お世話・配慮)の精神が求められる職種であり、この精神が
ご利用者・ご入居者だけでなくスタッフ間の関係性にも自然に現れるとも言えるでしょうか。
◆組織心理学においては、チームには「調整役(コーディネーター)」「縁の下の力持ち役」
「盛り上げ役(ムードメーカー)」「トラブル処理役」などが不可欠とされており、その存在
の有無が組織の生産性に大きな影響を与えると言われます。
そうなると、シャドーワークが良くない意味で採り上げられる現状は、経営者や管理職の評価
や認識にも問題がありそうです。
シャドー業務と言っても様々あると思いますが、必要なものは認め(評価制度、認め合う組織
風土作り)、代替すべきものは変える(廃止、DX化、負担偏在の解消)ことは検討するべき。
クレドの策定と浸透、職場におけるサンクスカードの活用、人事評価項目の整備など好事例は
多く、また企業によっては社員研修の一環としてボランティア活動など推奨・実施するところ
もあります。
どうしても目の前の業務に集中すると見えにくくなる部分を可視化するための努力を、各社が
実行しています。
◆シャドーワークとは、言葉の意味からすれば確かに管理の難しい領域ではありますが、それ
は同時に組織における人間的な温かさと結束力の源泉でもあるはず。
重要なのは、この言葉をさも無償労働として使ったり問題視するだけでなく、チームメンバー
が自然に発揮する思いやりの精神を持続可能な形で組織運営に活かしていくために必要な業務
だと認識することです。
介護という人と人とのつながりが根幹にある業界だからこそ、効率性と人間性のバランスを保
ちながら、真に強いチームを構築していきたいものです。
言うは易し…と自分でも感じながら、厚労省の報告書を見て、自戒の念をこめて考えました。
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業界で進む多様性、職場には年代・国籍・主義思想の違う人たちが集います。
実際に価値観の違いに悩む場面に接する機会もあるのではないでしょうか。
かく言う私もその一人です。
影(シャドー)は見えにくく、また簡単に教えられるものではないのですね。