今週、厚生労働省から発表された2つの記事を読みました。
いずれも高齢者福祉、社会保障費に関係するもの。
業界に従事するしないに関わらず、私たちみんなに関係してくるテーマです。
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■■介護保険制度のゆくえ
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◆まず一つ目。
9月30日に厚生労働省が発表したニュースで、昨年度の介護費が過去最高を記録、11.9兆円
だったというもの。
前年から4千万円以上(3.7%)増えて過去最高を更新しています。
この数字をどう評価するのかは難しいところですが、厚労省の発表資料を見ると、昨年度の
介護サービスと介護予防サービスの実受給者数が合計で約675万人、前年度より12万人以上
(1.8%)増えて、こちらも過去最高となっています。
単純な話にはなりますが、対象人数が1.8%増え、介護費は3.7%増えたということです。
◆もう一つ。
9月29日に開催された厚生労働省の審議会のリリース記事で、何年も前から繰り返し議論さ
れている「軽度者に対する給付の見直し」について記載されています。
具体的には、要介護1?2のいわゆる軽度者と言われる高齢者等に向けたサービス(訪問介護や
通所介護等)を都道府県ではなく市町村がそれぞれ運営する地域支援事業に移すことの是非に
関する議論です。
少しだけ説明を加えますと、現在の介護サービスは(要介護1?2の軽度者を含めて)介護保険
の「介護給付」で全国統一的に提供されているのですが、これを市町村運営の「地域支援事業」
に移行して地域の実情に応じて、専門職だけでなく住民やボランティア等も活用したサービス
を提供しようというものです。
◆紹介した2つのニュースから読み取れるのは、国そして地域における財政の持続化問題です。
急速な高齢化によって介護給付費の増大が続く
→現役世代の減少により保険料負担の増加が続く
→増税などの対処には限度がある
→介護を担う人材の不足も深刻化している
→限られた財源や人材を重度者に重点分配したい
◆介護現場や家族会などは強く反発しており、この議論はなかなか前に進まないのが実情。
業界に関わるものとして事業者としての視点はもちろんですが、この課題は住民(現役世代)
としての視点でも考える必要があります。
市町村の財政力や意欲等の差によって活動に制限が生じ、場合によって減収となる可能性は
事業者としては無視できません。
「いつかはそうなるだろう」と頭では分かっているものの、いざ施行されるとなれば経営への
影響は大です。
この影響は高齢者にも及び、必要なサービスを受けられない介護難民の発生リスクにも繋が
りかねません。
もう一方の、住民(現役世代)としてはどうでしょう。
例えば、保険料負担の上昇抑制や制度の持続可能性向上などが実現することは直接的なメリ
ットだと言えます。
ただ一方で、親(家族)がサービスを受けにくくなる恐れもあり、介護離職を含めて家族負担
の増大に繋がる可能性もあります。
そう考えれば、この問題は単に介護業界だけのことではなく誰もが知り、そして考えるべき
ことだと言えます。
◆現状のまま推移すれば、2040年頃に高齢者人口がピークを迎えます。
マーケットが大きく変化するのであれば、運営・運用もその変化に合わせて見直されるべき
です。
業界で言えば次の報酬改定は2年後、大きな制度改定が実施される可能性もあります。
自分ごととして、今だけでなく先を見据えて、一人ひとりが考える必要があるテーマです。
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今日採り上げた改革案は、介護保険制度の持続性確保という大義名分がある一方、サービス
の質の低下や地域格差拡大のリスクも大きく、慎重な議論が必要な重要な政策課題です。
でも、着地点は別として何らかの取り組みが示される、それが次の報酬改定のタイミングに
なることは十分に考えられます。
「今の売上が来月から10%減となっても持続できるだろうか」
そのような視点も、今から真剣に考えておく必要がありそうです。