[ケアビジネスSHINKA論 Vol.3063]

高齢化する介護人材

今週の原田メルマガで紹介されていたが、「敬老の日」に合わせて総務省が発表した統計に
ついて見られましたでしょうか。
医療・福祉分野での人材高齢化に関するリリース(現実)、数字の向こう側にある示唆を考え
てみたいと思います。

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■■高齢化する介護人材
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◆改めて、リリースの概略を紹介します。
総務省統計によると、2024年の医療・福祉分野における65歳以上の就業者数は115万人に
達し、なんと10年前の約2.3倍という驚異的な増加を記録したとのこと。
就業者全体に占める65歳以上の割合も12.5%となっており、10年前の6.7%から倍近くに
跳ね上がっています。
これは他業界と比較しても際立った数字で、卸売・小売業が133万人で最多ではありますが、
増加率で見ると介護を含む医療・福祉分野が圧倒的です。

◆ここでは(私が認識可能な)介護業界に絞って話を進めますが、なぜ介護業界に高齢者が
集まるのでしょうか?
「ならでは」の理由として、人生経験の価値が活かせたり年齢が近くなればご利用者の共感や
理解を示しやすいこともあるでしょうか。
また比較的体力的負荷の少ない業務から段階的に関わることができる柔軟性も魅力ですかね。
他にもポジティブな理由・要因は考えられそうですが、その一方でこれは人材不足の裏返し
とも言えます。
若い世代の確保が困難な中、経験豊富な高齢者人材が「最後の砦」となっている。。

◆他業界との比較で見てみると介護業界で高齢者雇用率急激に増加しているのに対し、例え
ば製造業界では比較的低く抑えられています。
製造業では機械化・自動化が進むことで物理的負荷が軽減される一方で、専門的なスキルや
新技術への適応が求められます。
対照的に介護業界は、まだまだアナログな作業が多く、人間性や経験値が重視される傾向に
あります。
この辺り、高齢になってからの働きやすさにも関係するのでしょうか。
業界の良さと受け取るべきか、課題と認識するべきか。

◆業界では高齢者だけではなく海外人材も急増しており、人材構成の多様化が進んでいます。
これら多様性は大きな強みになる一方で、コミュニケーションの齟齬、業務手順の統一困難、
技術習得スピードの差といった課題も浮上します。
極端な例ですが、70代の職員がベテランの勘で行っていた判断を20代の外国人スタッフに
口頭で伝える──
そんな場面も起こり得ます。
ここで重要になるのが、やはりデジタル化。
現在の介護業界のICT導入率は、ある調査記事によると介護ソフトで約67.5%、タブレット
端末で53.6%という状況。
進んでいると判断すべきなのかどうか。
別に「使いこなせているか」という観点でも考える必要がありそうです。

◆今日のテーマである高齢者就業の急増は単なる人材不足の象徴というわけではありません。
海外人材も含めて多様な人材が活躍できる職場環境というのは、業界の特性でもあり強みにも
なるはず。
そのためにも環境を整備し、それぞれを活かす経営・運営ができれば、他施設との大きな差別
化要因になります。
手段としてのDX化への投資は確かにコストはかかりますが、人材の定着率向上や業務効率化、
そして何より利用者様へのケア品質向上という形で必ず返ってきます。
他業界とも競争しながら若手人材の獲得・定着にこだわるのか。
多様な人材が就労する前提で、その環境整備に着手するのか。

◆いつものDX・IT推進の話になってしまいそうですが、今回のテーマを考えるにおいて避け
ては通れない話です。
DXは単なるツールの導入ではなく、「業務の平準化」「ノウハウの可視化」「コミュニケー
ションの標準化」を実現する戦略的投資として考えるべきもの。
高齢者でも外国人でも誰もが同じレベルのケアを提供できる仕組みづくりは、目指すべき次な
るステップの一つです。
多様な人材が集まる現場では、属人的な業務運営では限界があります。
「介護業界の未来は、テクノロジーと人間性の融合にかかっている。」
そんなことを考えます。

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20XX年、とある介護施設のスタッフ構成
60代以上の日本人、20-30代の外国人材、ロボット、そして中間層の日本人職員数名が混在
する状況

遠い未来、とは言えなさそうですね。