[ケアビジネスSHINKA論 Vol.3053]

介護が当たり前ではない社会

以前のメルマガで、介護事業所の倒産件数が増えていること、中でもヘルパー(訪問介護員)
そして訪問介護事業所が深刻であるとの話(介護異次元崩壊という話)を取り上げましたが、
ケアマネ不足も深刻であるとの記事を見かけました。
もちろん情報としては知っていたものの、その具体的数字など状況を目にして改めて考えさ
せられました。

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■■介護が当たり前ではない社会
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◆最近発表の調査によると、居宅介護支援事業所(ケアマネ事業所)の数は減少し続けており、
あわせてケアマネジャーの不足が顕著な問題になっているようです。
厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」に登録された居宅介護支援事業所の一覧分析
によると、2020年末には全国に約40,000件あった事業所数が、2024年末には36,488件
にまで減少しています。
この4年間で9%弱の減少なのですが、高齢者人口(マーケット)が拡大を続ける中での事実
であることは見逃せません。

◆訪問介護についても改めて。
NHKは数ヶ月前、訪問介護を手がける事業所の無い地域がどこまで広がっているのかを都道
府県を通じて調査・公表しています。
その結果、要介護1以上の高齢者の訪問介護を手がける都道府県指定の事業所が“地域に一つ
もない”という自治体が、昨年度、全国で109の町村にのぼったとのこと。
また事業所が“一つしかない”自治体は全国で268市町村あり、あわせると377市町村、実に
全市区町村の5分の1以上となります。
こうした自治体では、近隣地域の事業所がヘルパーを送るなどして訪問介護サービスを維持し
ていますが、中には訪問の回数を減らしたり曜日を限定したりする他、サービスの依頼を断ら
ざるをえないケースも出てきています。
つまりは、
『訪問介護サービスの提供が困難になり利用者へのサービスが制限されるケースが増えている』
ということです。

◆ケアマネ・ヘルパーに共通しているのは、訪問介護の運営が安定的に行われるためには担当
職員の確保が不可欠だということです。
しかし決して人員だけの問題ではなく、例えば地域によっては交通の便が悪くて職員が訪問す
るのが難しい場所もあります。
地方ではより顕著な問題であり、例えばケアマネやヘルパーが利用者のご自宅へ訪問するのに
片道1時間近くかかるとなれば、サービスの提供を制限せざるを得ないことも責められません。
介護事業を運営する営利法人としては事業所としては1件でも多くのサービスを提供したいと
考えるでしょうし、ガソリン代をはじめ物価高騰なども経営を圧迫して頭を悩ませているはず。
本当に難しい問題です。

◆もちろん厚生労働省も問題視しており、報道や記事によれば「事業所が休廃業する主な要因
は人手不足で、人材確保に大きな課題があると認識している。訪問介護の運営が安定的に行わ
れるよう、個別の状況を丁寧に把握していきたい。」など見解を示しています。
簡単な問題ではないことは理解しつつも、このままでは地域間での介護サービスの格差がます
ます広がることが懸念されます。
介護が必要となった時に相談できる専門家(ケアマネ)の不在、またサービスを提供してくれ
る専門家(ヘルパー等)の不在は、業界の問題という範疇を超えてもはや全国民に関する問題
とも言えます。
サービスを提供する側、そしてサービスを受ける側それぞれが、真剣に向き合うべき問題です。

◆では、どうしていくべきか。
その方向性を考えるうえでのヒントは国や行政の示す方針にも見ることができます。
キーワードとして目や耳にする機会が増えているものとして、地域連携(包括ケアシステム)、
人材(資格等)に関する規制緩和、テクノロジーの活用などがあり、これらは単なる号令だけ
でなく、加算や補助・助成金などとセットで打ち出されます。
でも先述した通り、営利法人としては当然に“損得”の判断も生じてきますので、国としては
社会全体の問題解決に向けてより思い切った制度やアクションの実行が必要となります。
そしてそれらの動きは、対象となる地域のみならず、業界にいる事業者全体にも影響を及ぼす
可能性があります。
業界内の規制や制度・義務化事項の増加、そして報酬自体の改定など。

◆もはや福祉・医療・経済・道徳といった枠組みの中だけで解決できる問題ではなく、それら
を横断して社会的問題として捉える必要があります。
行政だけではなく業界に従事する私たちも、そして、いずれ当事者として関わるすべての人も
同様です。

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あまり議論になりませんが、介護費だけでなく、例えば高齢者医療費なども同様です。
2023年度の後期高齢者医療費の総額は約17兆8千億円ありましたが、このうち約5割が公費、
約4割を現役世代が加入する健保等からの交付金で賄われています。
(高齢者の自己負担は約1割)
介護が受けられない問題はいずれ医療での対応にも繋がりますが、そうなれば現役世代の負担
が更に上がることは避けられません。
高齢者も有権者であるため抜本的な提言がしにくい…そんな穿った見方もあながち間違いでは
ないとするのであれば、私たち個々人が問題意識や危機意識をもって行動していくしかありま
せん。