とある介護現場で職員の会話を聞いていた時、ふとタイトルにある『区別』と『差別』という
言葉が頭に浮かびました。
悪意をもって用いることは以ての外ですが、『区別』を前提にしたルールや業界慣習にあって、
無意識に『差別』と言われるような言動になっていることがあるのではないか、そんなことを
考えたのです。
「介護度に応じてサービス内容を変えることは区別?差別?」
「夜勤をする職員としない職員に分けることは区別?差別?」
自戒の念をこめて採り上げてみたいと思います。
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■■「区別」と「差別」
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◆X(旧Twitter)などSNS上で『ジェンダー平等』『多様性』『共生社会』といった言葉を目
にする機会が増え、同時に政治や行政、メディアでも頻繁に使われるようになりました。
これらは誰もが尊重されるより良い社会を目指すためのキーワードであると理解する一方で、
そこに『区別』や『差別』といった言葉(考え方)が加わると、いったい何をどう配慮すれば
よいのか分かりにくくなり、SNS上ではむしろ“新たな差別”を生むようなことも起こります。
◆介護・福祉業界はまさに多様な人を利用者として受け入れ、そして多様な人が働く現場です。
社会全体の高齢化が進み、業界全体で人材難が問題となっている今、より顕著になっています。
業界に関わるものとして日頃から虐待防止や倫理規則についてなど研修で学ぶ機会はあります
が、そもそも根本の考え方や背景についてまで詳しく触れることなく個々の解釈や判断に委ね
ることも多いのではないでしょうか。
常識的に考えれば分かるでしょう(分かっているはずだ)…と。
その代表格として気になったのが『区別』と『差別』の違いです。
前文でも書きましたが、例をもって考えてみます。
◆例えば、?
・要介護度や医療ニーズに応じてサービスを調整する?
・資格や経験に応じて業務内容を変える
?・体調や希望を考慮して夜勤を免除する?
これらは、人それぞれの状況や能力をきちんと見定めたうえで適切に対応することが求められ、
現場運営において当然かつ必要な判断あることが多く、『区別』に該当するかと思います。
ただし、正当な理由に基づくことが必要であり、違いの認識を顧客や職員にもしっかり伝える
ことが大切です。
◆例えば、
・女性だから力仕事は無理だろうと決めつける?
・外国人だからクレームが来るかもしれないと接客を避ける
?・高齢だからICTには対応できないと研修や担当から外す
?これらは、思い込みだけで線引きしてしまう行為で、合理性のない不当な扱いであり、『差別』
に該当するかと思います。
例えそれが“配慮”からの判断だとしても、本質と無関係な属性による不利益な扱いとなれば、
もはや区別とは呼べません。
◆もうひとつ、考慮するべき言葉だと考える『公平/不公平』について。
先に触れた多様性や共生と言われる社会において、より個人の意思や努力を尊重しようという
考えの重要性が増しています。
でも最近はその言葉が一人歩きし、特にSNSや既存メディア上では「とにかく配慮しないと
批判される」「何を言っても炎上する」という空気が充満しているように感じます。
介護・福祉の現場においても同様です。
例えば、
?・特定の属性に“配慮しすぎる”あまり、他のスタッフの業務負担が増す?
・表現に神経質になりすぎて本音が言えない、議論ができない雰囲気が職場に蔓延する
このようなことが常態化すると本当に守るべき本質が置き去りにされ、表面的な公平(平等)
が新たな不公平(不平等)を生みかねません。
(公平と平等については、だいぶ以前のメルマガで採り上げましたね。)
◆ 私が偉そうに申し上げることではありませんが、介護・福祉現場において守るべきことは、
?・利用者や入居者一人ひとりの尊厳や生活の質
・職員一人ひとりの尊厳や成長意欲
・組織やチーム全体の運営バランスや公平性
など考えられます。?
これらを属性や空気ではなく実情や対話をもって合理的に判断し、必要に応じて『区別』し、
そしてしっかり伝えること。
特に職員や組織に関するお悩みの多くにも関係するように思います。
◆読み返してみても、まさに「言うは易し、行うは難し」の問題です。
経営者やマネージャーなど組織を率いる方に限りませんが、私自身も、次のようなことを心に
持ちたいと考えます。
・『区別』とは相手を尊重した結果の違い?・『差別』とは相手を見ずに決めつけた結果の違い
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すべてを平等に扱うことは難しく、また必ずしも正解ではあるとも言えません。
重要なのは『公正』な判断、職場の雰囲気や一人ひとりの状況や努力をしっかり見たうえで
対応することでしょうか。
本当に、、
「言うは易し、行うは難し」
です。
この夏休みにも、改めて考えてみたいと思います。