[ケアビジネスSHINKA論 Vol.2940]

正しい転び方

みなさん、おはようございます。
金曜日のメルマガ担当、ケアビジネスパートナーズの尾添です。

先日、運営するデイサービス(ショッピングリハビリ)でご利用者の転倒がありました。
サービス終了後、送迎でご自宅に到着後ではありましたが、すぐに事業所内で共有されて
スタッフ間で話し合いが行われました。
その場で、一人のスタッフが口にした「正しい転び方」という言葉をキッカケに、日頃の
リハビリ活動のある方についても議論となりました。
そんな出来事から採り上げたいと思います。
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■■正しい転び方
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◆介護職員が注意を払うことの一つが、ご利用者・入居者の転倒リスク。
転ばないために歩行や筋力トレーニングを実施したり導線を見直したりします。
ただし年齢を重ねるごとに体力は低下しますし、また介護現場では人不足が深刻化するなか、
どうしても「転ばない=できるだけ歩かない、立たない」という意識になってしまうことも。
たしかにヒヤリ・事故発生リスクは低減しますが、不活性による別の問題が起こりますね。
それでも・・・転倒事故は怖い。。
「転倒を防ぐために活動を制限すべきなのか」
「自由を尊重すればリスクは伴う」
現場ではこうした葛藤が繰り返されています。

◆私自身、ショッピングリハビリを通じて日ごろから歩行の重要性や必要性を訴え続けている
ことから、どうしても歩行そのものや転倒防止に意識が向きがちです。
そんな時にハッとさせられたのが、冒頭でお伝えしたスタッフからの「正しい転び方」という
言葉。
「転ぶことを許す(許容する)ケア」
お叱りを受けそうな言葉ではありますが、自立支援という観点に立って、いま一度考えてみて
も良いのではと考えた次第です。

◆高齢者医療に関する統計調査によると、65歳以上の高齢者の約20~30%が年間に一度以上
転倒を経験しています。
そして転倒が大きな怪我につながることも多々。
特に骨折は最も重大な結果の一つで、股関節や脊椎の骨折は長期的な身体機能の低下を招き、
日常生活に支障をきたす場合も。
また身体的な影響だけではなく精神的健康にも大きな打撃を与えます。
転倒を経験した多くの高齢者が「転倒恐怖症」に陥り、外出を控えたり、活動範囲を狭めたり
する傾向がありますが、これらは社会的孤立や運動不足を引き起こし、更なる身体機能の低下
を招く悪循環を生み出します。
そうなると介護費や医療費の増大にもつながっていき。。

◆転倒予防対策は、主に二つのアプローチに焦点を当てられることが多いように思います。
第一に、高齢者の身体機能を維持・向上させるためのトレーニング。
そして第二には、生活環境の改善ですかね。
実際には上記のアプローチだけで転倒を完全に防ぐことは困難ですし、先述の通り、加齢に
伴う体力の低下や転倒リスクの増加は避けられず、「転ばないで!」だけでは解決しません。
高齢者の身体特性や予測不能な日常生活における転倒リスクを考えると、新たなアプローチ
が必要不可欠となってきます。

◆そこで考えてみたいのが「正しい転び方」について。
転倒時の衝撃を最小限に抑え、大きな怪我につながることを防ぐ「正しい転び方」の習得こそ
高齢者の安全と自立を支えるカギとなり得るのではと考えます。
例えば受け身の技術を身につけることで、転倒時の衝撃を分散して骨折や深刻な打撲のリスク
を大幅に低減できます。
転倒時に手や腕を適切に使って衝撃を和らげたり、身体を柔軟に保ち衝撃を分散させたりする
方法を学ぶことが重要ですが、そのような指導を行っている介護施設は多くないのではないで
しょうか。
こういった取り組みは、高齢者の身体的脆弱性を補いつつ精神的な転倒恐怖症を軽減する効果
も期待できます。
そして、万が一の際の対処法を知ることで高齢者が自信を取り戻し、より活動的な生活を送る
ことができるようになるのではと思うのです。
「正しい転び方」とは単なる技術的スキルではなく、生活の質(QOL)を守るための重要な
防御戦略となります。

◆私たちが本当に防ぐべきなのは「転倒そのもの」ではなく「転倒への恐れや転倒自体が奪う
平和な日常」なのではないか。
「正しい転び方」の訓練は、単に怪我を防ぐだけでなく、高齢者の自立と尊厳を支える重要な
取り組みなのではないか。
そう考えれば、改めて見直し、考えていくべき問題だと言えます。

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「倒れ方を知る者は、倒れない」
柔道の始祖・嘉納治五郎さんが遺した言葉です。
本日のメルマガは高齢者の転倒を題材としましたが、この言葉、私たちの仕事や生活において
も教訓となる、胸に響く言葉ですね。