みなさん、おはようございます。
金曜日のメルマガ担当、ケアビジネスパートナーズの尾添です。
今週、ネットニュースにて「2024年の児童福祉事業の倒産が前年比20%増の30件となり、
05年以降で最多となった」という東京商工リサーチの調査結果が報じられました。
児童福祉事業とは、児童発達支援センター、放課後等デイサービス、放課後児童クラブ、
児童養護施設など。
知り合いは多いものの私自身は事業経験がなく無責任なことは言えませんが、同じ福祉業界
として無視できない記事であり、採り上げてみたいと思います。
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■■One for All
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◆報道記事によると、2024年の倒産30件は2019年(5年前)の7件から4倍以上。
負債総額は79億円を超え、前年実績から約7倍増えて最大となったとのこと。
ただこの年に負債額が膨らんだのは、児童発達支援事業の大手だったコペル社が同年5月に
に民事再生法の適用を申請し、その負債総額が約69億円だったことが影響しています。
児童福祉事業における最大規模の倒産としてニュースになりましたが、街中でクマの看板を
よく見かけていただけに驚いたことを覚えています。
◆児童福祉事業は小資本でも参入できる一方で、少子化により利用者の獲得競争が激化して
いると言われます。
2024年実績における倒産の理由は販売(営業)不振が17件で最多。
他に、障害児給付費の不正受給などコンプライアンス違反や、コロナ禍、人手不足など原因
も見受けられます。
ちなみに、東京商工リサーチが児童福祉事業の倒産状況を調べたのは今回が初めてとのこと
ですが、それほど動向を注目しており、今後も物価高や人件費の高騰などにより倒産の増加
傾向が続くと推察しているようです。
◆もう少し状況を掘り下げてみます。(もちろん本当の原因は個別に調べなければ分からず、
あくまで入手可能な情報からの推察となります。)
環境要因で言えば、やはり「少子化」は大きな要因かと思います。
ただマーケットに関しては以前から明確になっていたことであり、「思ってたのと違う」の
直接原因とは言いにくいように思います。
これも切り抜き情報ではありますが、虐待や貧困など「複合的な問題を抱える子ども」への
専門的支援ニーズは増加しているとの報道は多く、こちらは供給不足が叫ばれています。
もしかしたら、児童養護施設や里親委託の需要に変化が生じており、従来型施設のサービス
が時代に適合しなくなってきているのかも知れません。
◆人件費・光熱費等をはじめとした運営コストの高騰も影響は小さくないですね。
それはどこも同じとはいえ、一方で頼みの綱である公的補助金は抑制傾向にあります。
児童福祉施設は職員配置基準が厳しく、人件費が経費の70%を占める例もあるのだと聞いた
ことがあります。
介護も障害も、公的財源をベースにした事業においては他人ごとではない問題です。
IT化の遅れなども指摘されますが、こうした課題も福祉業界に共通します。
小規模ゆえに「経営者=現場責任者=ヘルパー」という施設も少なくないはずで、頭が回ら
ないのが実情かと思います。
◆他には「国・行政がー」とか「制度がー」という問題もあるのかも知れません。
ただ、こうした一般的に言われるような原因課題だけなのでしょうか。
介護・障害をはじめ、もともと福祉事業は当事者・事業者・地域(行政)いずれにもプラス
となる三方良しの前提があり、それぞれに努力するべき事項が存在します。
先述の「事業者の経営努力」とか「行政の制度設計」などは真っ先に指摘されますが、もう
一つ、すべてに影響を与えているのではないかと感じる大きな問題があります。
それは、潜在化しがちな「国民の意識」という問題です。
◆ネット検索情報ですが、2023年の内閣調査によると児童養護施設の存在を「詳しく知ら
ない」と答えた国民は62%。
また2022年のNHK意識調査では、虐待児童のニュースに対して「自分には関係ない」と
回答した人が45%。
断片的な情報だけで語れませんが、それでも当事者意識の欠如や無関心は看過できません。
「福祉は税金で(行政が)解決すべき」という受動的姿勢が広がってはいないでしょうか。
こうした思いを強くするのは、SNS等で、例えば生活保護受給者を一方的にバッシングした
り、経済的理由で施設入所する子どもに関して「親の責任論」を吹っかけたりするコメント
を目にした時です。
なんでしょう、「支援対象者の選別思考」とでも言うのでしょうか。
昔と違い、地域のつながりが希薄化してきていることも要因かも知れません。
つい最近も身近で話題となりましたが、これまで地域を支えてきた民生委員の担い手不足は
深刻で、2023年時点で全国2万ポストが未補充との統計もあります。
町内会加入率が大幅に減少傾向だったり、あちこちで「施設反対運動」の看板をみかけたり。
「All for One」のオンパレードですが、「One for All」の精神はどこに行ったのでしょう。
◆なんだか愚痴のような内容になってしまいました。
でもこれは、業界にいる私たちにも責任があると思うのです。
福祉の実情や重要性に目を向けてもらうためには、まず私たちから発信し、そして関わって
いく姿勢が求められます。
私たち自身が「福祉は税金で解決すべき」と思い込んでいないでしょうか。
そうであれば、国民の無関心を一方的に責めることは出来ません。
日ごろから原田のメルマガでも福祉に関わる政治ニュースが紹介されますが、どれだけ関心
をもってキャッチアップし、自分事として行動できているか。
私自身も胸がチクリとします。
もちろん簡単・単純な問題ではありませんが、だからこそ福祉の必要性・重要性を誰よりも
知る私たちの言動が求められる、そう思っています。
◆社会に必要なはずなのに必要とされていない。
福祉施設の倒産や減少は、私たちが感じる以上に深刻な問題なのです。
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今週、私が運営する事業所のある兵庫県宝塚市で、市内に住む70代夫婦が市に254億円を
寄付するというビッグニュースがありました。
「市民病院の建て替え費用に」との申し出、詳しくは検索してみてください。
阪神・淡路大震災の時の経験が繋がっているのだとご本人のコメントもあります。
“One for All”
驚きとともに、本当に頭が下がります。