[ケアビジネスSHINKA論 Vol.2828]

オバマケア(米国大統領選挙戦を通して国民保険制度を考える)

みなさん、おはようございます。
金曜日のメルマガ担当、ケアビジネスパートナーズの尾添です。

色んな意味で、米国大統領選挙が注目されていますね。
メディアは相変わらず視聴者の関心を惹きやすいネタばかり流しますが、単に他国のトップ
を決める選挙ではなく、日本をはじめ世界の政治・経済へも大きな影響を与えます。
いくつか関心のあるテーマがありますが、本メルマガの主旨にあわせ、医療保険制度を巡る
議論について採り上げてみます。
一度は目や耳にされたかと思います、通称オバマケアについて。
米国において長年の課題であった医療保険の未加入者問題に取り組むべく、2010年に当時の
オバマ大統領が訴え続けたオバマケアが成立した制度です。

それでは本日のメルマガです。

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■■オバマケア(米国大統領選挙戦を通して国民保険制度を考える)
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◆米国の医療費は非常に高額だと聞いたことありませんか?
風邪をひいても簡単には病院に行けない、救急車に乗らない、手術が必要と言われても我慢
する・・・そんな話がチラホラ。
急病や事故が発生した際の経済的リスクが非常に高く、多くの家庭が医療費の負担に苦しん
でいた米国、2000年代には約5000万人の国民が健康保険に未加入の状態で医療サービスへ
のアクセスが限られていたそうです。
そのような状況下で、全ての国民に医療保険へのアクセスを提供し、医療の品質を向上させ
ることを目的としてオバマケアが制定されました。
ただし日本の国民皆保険制度とは違い、あくまで民間保険会社の保険への加入であり、国民
へ保険加入を義務化(かつては罰金ルールも)し、一方の民間保険会社にも病歴等を理由に
加入を拒否しないよう強く求めました。
結果として多くの国民が医療保険に加入するようになり、健康診断や予防接種など予防医療
が保険でカバーされるようになることで病気の早期発見と予防が推進されたようです。

◆この内容を見ると良いことしかないように感じますが、それでも今回の米大統領選挙戦で
トランプ候補(共和党)は制度の廃止また大幅な見直しを公約として掲げています。
なぜ?トランプ氏はかつて大統領だった時にも廃止を求めていました。
表面的な理解では、なんでもかんでも現政権の政策に反対していると見えてしまいますが、
そうではありません。
なかなか紹介されませんが、当然ながら理由があります。
トランプ候補がオバマケアの廃止または大幅な見直しを主張する主な理由は以下の通りです。

・保険料の高騰で低所得者層の加入が進まず、結果として国民皆保険の実現に至っていない。
⇒民間保険会社からすれば病歴等に関わらず保険加入を拒否できないとなれば当然に保険料
を上げざるを得ない。

・政府の過剰な介入により医療サービスの効率性が低下し、医療費の抑制にも失敗している。
⇒未加入者問題に主眼を置くばかりで医療サービスの質や効率性の向上には寄与していない。

◆もちろんトランプ候補(共和党)は代替案も示しています。
他の政策にも共通することですが、トランプ候補は個人の自由と権利を尊重し、政府の関与
を最小限に抑え、市場原理を重視した制度への移行を主張しています。
(確かに、自由の国と言われる米国で皆保険制度とか未加入者に罰則とか、らしくないと感
じますね。)

・州単位での医療保険市場の創設
⇒州間の保険商品の自由な販売を認めて競争を促進し、各州が独自の医療保険制度を設計で
きるようにする。

・医療費控除の拡大
⇒個人の医療費支出に対する税控除枠を大幅に拡大させ、保険加入者の自己負担を軽減して
医療アクセスを改善する。

・事前既往症の取り扱い緩和
⇒保険加入時の既往症に関する制限を緩和し、個人の選択肢を広げて保険加入を促進する。

◆そして、私たちが考えるべきは日本の国民皆保険制度の在り方や持続可能性です。
介護保険制度をはじめとした福祉制度に焦点を絞っても、制度ありきの考えではなく、制度
の要否を含めて抜本的に見直す時期にあるのではないでしょうか。
日本の国民皆保険制度はご存じの通り、高齢化に伴う医療費の増大により財政的な持続可能
性が危ぶまれています。
制度の持続可能性を高めるためには医療サービスの効率化、予防医療の推進、介護サービス
の充実など総合的な取り組みが必要ですが、そのような議論や動きはあるでしょうか。
また業界に関わる私たち自身が実態を知り、真剣に考えられているでしょうか。
世代間の負担の公平性という点をとっても、もっと採り上げられるべき課題だと感じます。

◆先の東京都知事選、また現在行われている米国大統領選など選挙戦を通じて、各候補者の
主張を通じて国の在り方や未来を考える。
結局は私たち国民の関心の有無が現在の状況をもたらしているのです。
政治のレベルは国民のレベルを反映する、笑えない言葉です。

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先の東京都知事選、選挙が終わってから一斉にメディアが多くの候補や主張を採り上げ始め
ましたね。
選挙妨害やポスター問題は大々的に流すくせに、主要候補者以外の主張には全く触れない。
でも、実際の得票数など結果を見ても、選挙そのものが変わってきたと感じます。
業界団体の陳述や提言も大切ですが、大局的・長期的な制度設計について私たち自身が関心
をもって考えていきたいものです。

本日もありがとうございました。