[ケアビジネスSHINKA論 Vol.2819]

引き際の美学(免許返納の話)

みなさん、おはようございます。
金曜日のメルマガ担当、ケアビジネスパートナーズの尾添です。

先週末、知り合いの作業療法士に誘われて安全運転健康教室なるイベントに参加しました。
兵庫県作業療法士会では高齢者や障害者等の自動車運転サポートに熱心に取り組まれており、
県内各地でイベントを開催されています。
とはいえ「頑張って運転しましょう」と促す内容ばかりではありません。
とても気づきの多い時間でした。
その内容を少しだけご紹介し、今回は免許延納について考えてみたいと思います。

それでは本日のメルマガです。

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■■引き際の美学(免許返納の話)
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◆参加したイベントは、セミナーから健康測定まで様々なプログラムが用意されていました。
ショッピングリハビリも作業療法から着想したもので、運転に関しても個人的に興味津々。
安全運転セミナーにおいて紹介・説明された内容は以下2つのポイントに関するものでした。

①できるだけ長く運転できるようトレーニングを頑張りましょう。
②自分の衰えを認識したうえで運転を続すべきか考えましょう。

◆各地で起こる高齢ドライバーの事故がメディアで取り上げられるたびに議論になりますね。
事故現場や被害にあった方の情報を目や耳にするたびに、自分の親や祖父祖母のことを思い
出す人も多いのではないでしょうか。
それでも運転を続ける当事者にしてみれば「車がなかったら生活できない」「買い物や用事を
どうすればよいんだ」との思いがあるでしょう。
そして、あわせて根底にあるのは「自分はまだ大丈夫」の思い。

◆セミナーでは、法律(道路交通法)について、免許返納制度(返納後にもらえる運転経歴
証明書の取得条件)についてなど、知っていそうで知らない有益な情報の紹介がありました。
それに続いて説明されたのは“加齢による体の変化と運転への影響”について。
視覚機能・注意機能・遂行機能・視空間認知機能・見当識など様々な脳機能の低下について、
また失行や病識欠如についてなど、自分でも思い当たる・・・ような説明が続きました。
聞けば聞くほど、他人事ではありません。。

◆安全運転はまず「知ること(気づくこと)」から。
そして何を知るべきかと言えば、「加齢の影響を知る」こと、そして「自分を知る」こと。
多くの高齢者にとって生活を支える車、そして運転です。
だからこそ私たちは「知る」ための機会を提供し、そしてサポートを続けていかなければいけ
ません。
「危ないから取り上げる」ばかりでなく「知ること(気づくこと)」から行動変容を促すこと。
これは介護・リハビリに関わるものとして意識するべき事だと再認識しました。

◆その一方②の免許返納について。
この点についてセミナーでは深くは取り上げられませんでしたし、説明は不要かと思います。
人によって、地域によって、車(運転)は生活の基盤となっている方は多いはず。
「危ないから」「何かあってからでは手遅れだから」免許を返納するよう求める私たちの視点
や主張ではなく、これまで実際に免許返納をされた二人の有名人の話を紹介して締めくくり
たいと思います。

◆一人目は加山雄三さん。
2019年の春に免許返納されていますが、キッカケは「テレビゲームで遊んだ際に反射神経の
衰えを感じ、運転が怖くなった」から。
加山さんはバイオハザードが大好きで、腕前も相当なものとしてゲーマーの間では有名です。
免許返納に関して取材を受けた加山さんは次のように答えられたそうです。
『それ(免許返納)を判断したのはね、ゲームでね。反応がちょっとね、悪くなった。「点数
が伸びない!なんでだよ!」って。それで反射神経がだいぶ鈍くなったなと思ったんだ。』
『絶対侮ってはいけない、絶対にね。高齢になった時の判断力っていうのはやっぱり、自分
でやってみりゃすぐ分かりますよ。衰えているということに気が付かなきゃいけない。やっ
ぱり返納すべきだって、もう70後半、80歳になったらもうダメですよ。』

◆そしてもう一人は西川きよしさんです。
今年2月に運転免許証を自主返納されました。
免許返納を決心したものの免許証との別れはとても辛く、何とも言えない寂しさを感じたそう
ですが、そんな西川さんが免許返納を決断した理由について、取材に対して以下のように答え
られています。
『相次ぐ高齢者ドライバーによる交通死亡事故のニュースをみて「何かが起こってからでは
遅い」と、家族とも相談した上で返納を決めました。』
『自分も75歳になり、視力も聴力も衰えを感じる時がある。家族とも話をして、いい思い出
が詰まっている時に決断しました。』

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西川きよしさんの『(運転に関して)いい思い出が詰まっている時に決断した』という言葉に
は考えさせられます。
学生の頃、ポンコツの中古車を買って友人に自慢しまくったこと。
彼女を乗せてドライブデートに出かけたこと。
家族ができて、増えて、色んな場所に遊びに行ったこと。
買い物や塾の送り迎え、その他あれこれ。
そんな思い出を悲しみで上書きしたくないし、家族にも上書きさせたくない。
その通りですね、ほんと。

本日もありがとうございました。