[ケアビジネスSHINKA論 Vol.2721]

ナッジ

みなさん、おはようございます。
金曜日のメルマガ担当、ケアビジネスパートナーズの尾添です。

今週、近畿経済産業局(経済産業省)主催の自治体職員・モビリティ事業者向けイベントに
スピーカーとして参加する機会がありました。
イベント全体のタイトルは『高齢者の先進モビリティサービス利用促進ワークショップ』
そのサブタイトルには『行動プロセスからナッジによる介入案を考えてみよう』とあります。
私はショッピングリハビリの取り組みについて、その事例紹介として講演してきました。

ん?ナッジとは・・・?
というわけで、本日のテーマは『ナッジ』です。

それでは本日のメルマガです。

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■■ナッジ
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◆突然ですが、以下の数字を見てください。
・日本     10.20%
・ドイツ    12.00%
・イギリス   17.17%
・オランダ   27.50%
・デンマーク  4.25%

・オーストリア 99.98%
・ハンガリー  99.97%
・フランス   99.91%
・ポーランド  99.50%
・スウェーデン 85.90%

◆前半5ヵ国と後半5ヵ国で大きな差がありますが、いったい何の数字でしょうか。
答えは、臓器提供に対する同意率の各国比較(少し古いデータ)です。
日本では2010年に改正臓器移植法を全面施行し、臓器提供可能者の枠の拡充や同意要件緩和
など取り組んできましたが、そうした取り組みの結果として内閣府の「移植医療に関する世論
調査(令和3年9月調査)」によると、臓器提供の意思表示について「既に意思表示している」
または「既に意思表示をしたことを、家族または親しい人に話している」と回答した人の割合
が10.2%です。
この割合は高いと言えるのか、低いのか。

◆運転免許証や健康保険証の裏面を見ると自分の意思を記入する欄があり、そこへ記入するこ
とで「意思を表示した」と判断されます。
したがって日本では意思が表示されないと、同意は成立しません。
このように、同意したい場合に意思表示を必要とする選択肢の設計の仕方を“オプト・イン
方式”と言います。
実は、日本からデンマークまでの前半5ヵ国はこの方式を採用していました。
反対に、オーストリアからスウェーデンまでの「異常に比率が高い」国では“オプト・アウト
方式”を採用しています。
ご想像の通り、オプト・アウト方式では「同意したくない」場合に意思表示欄に意思表示が
必要とされます。
つまり記入がない場合は反対していないということで、「同意した」と推定されるわけです。
(余談:イギリスとオランダはその後の法改正でオプト・アウト方式に変更しました。)

◆このように意思表示の仕方や選択の設計を工夫することは「ナッジ」の代表的な手法です。
「ナッジ」とは人々がより良い選択をすることを促すために、微妙な方法でその行動をそっ
と後押しすることであり、行動経済学におけるナッジ理論としても有名です。
身近なナッジの活用例としては
・レジ待ちの並び位置に足跡ステッカーを貼ることでレジの効率化を図る
・トイレに「いつも綺麗に使っていただきありがとうございます」という貼り紙をして清潔
さを保つ
・男子トイレの便器内にターゲットを設置して散らかしを減らす など。
嫌な言い方をすると人間の意思決定の“癖”を利用する手法であり、相手に命令することなく
お金をかけずに実行することができます。

◆今回例に挙げた臓器提供の同意率についてナッジ的に考えると
『人は、デフォルトを選びやすい』
とでも言えるでしょうか。
推定同意とも言われる手法、これを正当な意思表示と受け取るか、または数字のマジックか。
ちなみにナッジ推進論者は、仮に同意したくなければ同意しないと表示すればいい話なので
当人の自由意志を阻害してはいないと主張しています。

◆この「ナッジ」は、行動経済学の理論を基に人々の行動を予測できる範囲に修正する仕掛け
ともいえることから反対や懸念の声も多くあります。
ナッジに対する批判の一つに、社会全体のためだからといって「人の意思決定に都合よく介入
してもいいのか」というものがあります。
特に日本は「慎重型ナッジ支持国」とされており、ナッジを行う際には慎重に注意する必要が
あると、わざわざ注意喚起をする自治体もあります。
結局は、使うほうも使われるほうも、しっかりと考える習慣と正しい倫理観をもって賢くある
こと、それに尽きるように思います。

◆参加したワークショップイベントは、ナッジについての解説、また具体的に高齢者の外出を
促すための方策を“ナッジ理論を活用して”考えるという面白い取り組みでした。
ただ、改めて感じたのは「こうした取り組みに福祉業界の参加がない(お呼びがない)のは
寂しいなぁ」ということ。
実際の活動に繋げる取り組みであるならば、その専門家が加わることは必須です。
高齢者の外出は、喜ばしいことである一方で大きなリスクも含みますからね。

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それにしても最近、自治体においてナッジを活用しようという動きも活発になっていますね。
勉強も兼ねて、ぜひ『自治体ナッジシェア』と検索してみてください!
これから自治体と協議する機会(特に街づくり等)がある方は、知っていたほうが良いかも
知れません。

今週もお疲れ様でした。
ステキな週末をお過ごしください!